犬の症例

今朝の症例は新しいものや音に怖がるというワンちゃんでした。私たちの診療科は来院される前に飼い主さんに質問をたくさん書いた紙を送って(10ページ位あって20−30個の質問に答えるもの)書き込んでいただきます。こうすることで来院前にどんな問題行動が気になるのか、どんなヒストリー(病歴)があるのかなどがわかります。今日の犬はこの質問書を読んだ限りでは怖がりのワンちゃんかと思ったのですが実際の犬を見たら元気いっぱいのラブラドールレトリバー君でした。確かに新しいものや不思議な音に対してちょっと怖がる傾向はあったのですが、ちょっとでも不安があったり、飼い主の気を引かせたいときにめちゃくちゃ吠えるということが1番の問題のようでした。
飼い主さんは盲導犬のあずかりサービスなどもされている博識のある方なので、非常に理解のある方でしたが、ちょっとした犬のトレーニングのことや、どうして犬がこのような行動をしているのかに対してきちんとした説明がされたことがなかったらしく、今回の来院で主にトレーニングと犬の行動を理解するということに重点を置いておなはしさせていただきました。
問題は飼い主さんと同居している飼い主さんのお父様。彼は一緒に大学までいらしたのに、頑として診察室には入っていらっしゃらず、3時間のカウンセリングの間暑い車の中で待たれていました。飼い主さんのお父様はどうしても犬をしかってしまうそうで、いらないときにしかられて犬はどうしていいか分からず、吠えたりいたずらを繰り返しているようでした。家族全員の理解と同じ方法でのトレーニングをしないとなかなかこの手の治療は難しいので、このワンちゃんどこまでよくなるか、ちょっと心配になりました。
どうしても飼い犬がしてほしくない行動を家の中でやっていると私たち人間は人をしかるように犬をしかろうとします。考えてみれば、犬は私たちの人間語は理解していないわけで、どうしても犬をしかるということは、犬には訳のわからないないことばでまくし立てているだけで、何もしていないと同じ事なのです。最悪の場合、犬は私たちの剣幕に怖がるだけで、ちっとも問題解決になりません。体罰も一緒です。言葉が分からないので、私たちはある行動に対して殴っていたとしても、理由なく殴られる犬たちは混乱しまうのです。
飼い主だから犬を教育しなくてはならないと私たち人間は人間の常識でそう考えがちですが、犬の教育は外国の3歳の子供を教育するのと一緒で、いきなり殴ったり言葉で諭しても彼らには何のことだか分からないのです。陽性強化法positive reinforcementというテクニックが日本でもかなり受け入れられてかなりの方がこの方法でトレーニングされているようですが、犬がしてはいけないことを教えるのではなく、犬がしていいことを教えていくのがワンちゃんの効果的かつ飼い主と一緒に楽しめる犬のトレーニングなのでした。