小太郎の仔犬災難の話

お姉さんが今日帰ってきたときに懐かしい匂いを手につけてきた。くんくん、これは「セブンちゃん」のにおいだ。セブンちゃんとはおねえさんと同じアパートに住んでいる黒い仔犬だ。セブンちゃんは今7ヶ月だが、お姉さんはセブンちゃんが生まれて3日目くらいから知っているらしい。セブンちゃんと他7匹の黒い仔犬たちが獣医学科のビルの前に捨てられていたのだ。お姉さんとおねえさんのテクニシャンさんは後の勉強のためと8匹いる仔犬のうちオスとメス1匹ずつを一緒に育てることにしたらしい。偶然お姉さんのアパートに住んでいる獣医の学生さんも1匹育てたらしいのだが、その子がこのセブンちゃんだ。
お姉さんは2日に1日は手のひらに乗ってしまうくらいの子犬を2匹家に連れてきては2時間おきにミルクを飲ませていた。
1ヶ月もするとこの2匹の仔犬たちは動いたり、騒いだりするようになってきた。僕の気に触りだしたのはその頃だ。6週間くらいになるともう大変である。僕に向かって突進してきてあそぼ、あそぼ、とうるさいのだ。何回か猫パンチを入れてやったが効果がない。飽きもせずに僕に突進してくる。
僕は乗ってはいけない台所のカウンターに飛び乗って災難を避けていたが、僕が見ていないと僕のご飯まで食べているのだ。マナーも礼儀もあったものではない。8週間位して仔犬たちはそれぞれの飼い主さんの元に引き取られていった。
今の飼い主さんは僕に感謝しているという話を聞いたのは最近だ。オスの仔犬ちゃんは、猫のいる家に飼われているのだが、猫のことをちゃんと分かって、きちんと距離を置き、猫を追いかけたりしていないらしい。赤子のときの僕の猫パンチ的教育がよかったらしい。
あの仔犬たちはうるさかった。僕のうちがおしっこだらけになったのもよくなかった。お姉さん、もう仔犬は連れてこないでほしい。