お姉さんは最近ベートーベンのCDを買ってきて、暇があるとそれをバックグラウンドにしてかけている。ベートーベンの交響曲3番「エロイカ」と交響曲8番である。ウィーンフィルとボエムの指揮のCDだ。音楽をかけているだけなら僕は許すが、お姉さんのアパートの冷蔵庫が急に調子が悪くなり、すごい音をたてている。寝ている僕も起きてしまうほどの音だ。冷蔵庫のせいで音楽が聞こえなくなると、お姉さんは音量を上げるから、冷蔵庫のモーター音をバックグラウンドにしたベート−ベンを僕は聴かされている。結構うるさくなるため、頭が痛くなってかなわない。
冷蔵庫に関してはお姉さんもたまらなくなってきたらしく、アパートの管理人さんに電話をしていた。大柄のお兄さんが来て冷蔵庫を見ていったが、彼は見ていっただけで、何もしてくれなかった。どうも月曜日になってお兄さんの「ボス」に聞いてみないと修理できないらしい。じゃあ、なぜわざわざお姉さんと冷蔵庫をひやかしに来たのかわからなかった。しいて言えば、ハンサムなこの僕を見に来たのであろう。
冷蔵庫の音はしょうがないとして、ベートーベンの理由はまだよくわからない。お姉さんが交響曲第8番をやけに気合を入れて聴いているにはきっとわけがあるはずだ。そのうちわかるであろう。