猫の話

最近私の所属する獣医行動学診療科に家の中で飼っているほかの猫を襲ってしまう猫が来ました。この猫は再診での来院だったのですが、過去に試した3種類の薬も効かず、ベビーゲートを家の中においてもらって攻撃猫と攻撃される猫を分けて、ゲートを挟んで行動療法をしていたのです。しかし、問題の猫は、何を試しても自らの体をぶつけるようにベビーゲートに飛び込んでぶつかっていきながらも他の猫を威嚇し攻撃し続けているのだそうです。この攻撃猫ちゃんと仲良くできる猫は、この家の中でただ1匹。残りの4匹、特に年取った2匹はちょっとした隙に攻撃されて傷だらけになっているそうです。
最後の手段として女性ホルモンを現在与えているのですが(普通ホルモン剤は行動治療には使いません。効果が確かでないのと副作用が多いので。)、かれこれこの治療を始めて5日目、あまり効果は出ていないようです。そこで私のボスが言い出したのは、手術。。。。嗅覚をつかさどる脳の部分を切ることで、前頭葉に行く情報をコントロールし、また感情をコントロールできるからということでした。30年前はいい薬もなかったし、この手術はなされていたらしいのですが、いまや、効果のある薬もできて、この方法はもう行われていません。脳の手術をすることで、攻撃性がなくなるというのですが、この手術はねずみに施すことで、人間のうつ病状態を作るという手術。いったい脳の感情をつかさどる部分がどう破壊されるのか、それによって攻撃行動は静止できてもそのほかの部分で猫はつらくないのか、はたまた猫のQuality of Lifeはどうなるのか。考えさせられました。
安楽死よりも手術の方がいいではないか、という意見もあるのですが、この手術がいったいどの様に猫の感情に影響を及ぼすのかわかっていない現在、私は科学者としての興味があるので、やってみたいという気持ちはありますが、感情のある人間として。。。何がいいのだろうと思いました。
きっと悩み続けるでしょうね。この猫を強引に治療する事は人間の身勝手なのか、本当に猫にとっていい事なのか。。。治療することで崩壊直前のこの飼い主家族は救えるかもしれないけれど、本当にそうなのか。う〜ん。今夜も眠れない夜になりそうです。