水を飲まなくなったわんちゃん

きれいな毛のラサアプソのワン君、水を飲まなくなったといって、内科から私たちのいる精神科に回されてきました。確かに生まれつき腎臓に障害のある子なので、水を飲まないというのは致命的なのです。飼い主さんは心配のあまり水のみ行動に気をとられすぎたようで、このワンちゃんはお母さんが水のボトルを持って追っかけると逃げるようになってしまいました。水のみボイコットです。何週間もたびたび大学病院に急患としてつれてこられ、でもICUにいる間は、他の犬の水まで飲もうとするくらい水をきちんと飲むのですぐ家に返すのですが、家に帰るとまた飲まないのです。結局飼い主さんのお母さんは犬の皮下(皮膚と筋肉の間)に点滴を毎日打って水分がちゃんと入るようにしていたのです。しかし、この状態は犬にとってもよくないので、私たちのところにどうやって犬に水を自主的に飲ませるようにするか、どうやって飼い主さんにあまり水を飲ますということに気を止めないでリラックスしていただくか、という主訴で内科から問題のラサアプソ君が回されてきました。
飼い主さんと毎日のように、大丈夫ですからワンちゃんをちょっとほっておきましょう、では、点滴は毎日から2日に1度にしてみましょう。一緒に治療して行きましょう、と語り続け、今日のメールで、毎日ちゃ〜んとのんでいま〜す、という報告を受けました。やった!大変な飼い主さんでしたが、こういう連絡はうれしいものです。点滴も徐々になくして、今はまったくしていないし、抗不安剤もちょっと飲ませていましたが(お母さんが近くにいても怖がらずに水が飲めるように)、今はまったく薬もなしでちゃんと水を飲んでいるようです。ちなみに腎臓の値も問題なしです。
獣医師の仕事は動物の病気を治して動物を楽にさせてあげること、また人と動物の健康的な関係を築いてあげることだとわたしは思います。しかし、忙しすぎるあまり、病気だけ治して飼い主さんの話をきちんと聞いてあげられない、ということは間々あります。わたしも開業獣医病院で代診していたときは本当に飼い主さんの話を聞けないということはよくありました(忙しすぎて)。今回の症例は非常に神経質な飼い主さんだったのは確かですが、結局犬の治療をするというよりも飼い主さんの話を根気よく聞いて大丈夫と励ましてあげることで問題が解決したというものでした。
動物と人間が幸せに一緒に暮らすために、獣医師は、動物のみならず、飼い主との関係もみていかないと、飼い主さんがなんだか納得行かなくなって、動物にその飼い主さんの気持ちが行ってしまうのかなと思いました。獣医療も飼い主さんとじっくり向き合って話せるように時間的に余裕ができればいいのですが。。。