兄弟げんか

私の1番苦手とする症例は、家の中で飼っている犬同士がけんかをして傷付けあうという症例です。行動学は犬のボディーランゲージを観察し、飼い主さんの話しを聞いて、犬の気持ちになって考え、その問題行動を変えていくのが仕事ですが、同じ家に住む犬同士のけんかの場合、ある程度のけんかの原因は突き止められますが、犬とおしゃべりをすることはできないので、なぜ殺し合いになってしまうくらいけんかをするのか完全には分からないのです。ですから治療するにあたり、結局犬をみていないときは極力一緒にしないように、一緒にする場合は、120%監視の下で、という行動治療法を取るしかありません。こうなると飼い主さんのストレスは大きいです。うっかり一緒にしてしまったがために犬がまた大怪我をおってしまうかもしれないからです。こういう症例の飼い主さんに必ず聞かれる質問が、この犬たちは仲良しこよしに戻れないのかというもので、一度殺し合いのけんかをしてしまった犬たちが完全に仲良しに戻れるか、お約束できませんという予後の話しをしなくてはいけません。飼い主さんの気持ちを考えると、これがつらいのです。
ついこの前、同じうちに住む犬どおしが激しいけんかを2ヶ月前から始めてしまった症例がきました。結局2歳になった若い大きな犬が7歳になってちょっと関節炎が悪くなっているアルファー犬に世代交代を要求しているけんかなのですが、7歳の犬がどうもまだ1番の位置を譲る気がないらしく、かなり激しいけんかになっているのでした。犬たちがけんかをして順位を決めるからほっときましょう、なんていい加減なことを言ったら7歳の犬が殺されてしまう可能性もあるため、行動療法でどうやってこの順位の逆転を支えていけるか説明しましたが、結局かなり飼い主さんに負担がかかるのと、今まで7歳の犬にしていたことができなくなるというストレスから飼い主さん夫婦は涙、涙のカウンセリングとなりました。
飼い主さんの苦しみ、フラストレーション、そして涙を見ながらまるで彼らに死刑宣告をしているかのように現実問題の話しをしている自分がなんとも冷たい人間に思えました。
もちろん、大丈夫よー、といってあげたいのですが、そんなこといったら7歳の子は殺されてしまうかもしれない。。だから事実を告げないといけない、なんともストレスの多い症例でした。